広島県呉市から、国道487号線でつながる島、倉橋島の上部に、ちりめん漁で有名な音戸町があります。もともと音戸町はちりめんを獲るための網の生産地として知られていて、“ちりめん”を獲るために“音戸の網”を使用していたことから、“音戸の網=ちりめん”となり、“音戸ちりめん”として有名になったそうです。
その音戸町の中で、唯一の網元となっている、川口商店様は、創業100年、現在の社長の川口了一さんで5代目となり、ちりめん漁から加工まで、全てを自社で行っています。今回の取材では、社長の息子さんである川口覚詞さんにちりめん漁から加工までご案内をして頂きました。
“ちりめん”とは、一般的に“しらす”のことで、カタクチイワシの子のことを言うそうですが、音戸のほうでは、“しらす”ではなく、“ちりめん”と呼ぶことが普通となっているそうです。
川口さんのちりめん漁は、4艘の船で1チームとなって行っています。
4艘のうちの1艘目は“指令船”と呼ばれ、ちりめんの魚群を探し、2艘目、3艘目に指令を出すなどの役割をしています。この、2艘目、3艘目は“漁労船”と呼ばれ、“指令船”の指示により、海に網を仕掛け、2艘の船で網を引っ張りながら、ちりめんを獲る役割をしています。このように、2艘の船で網を引っ張りながら漁をすることを、“二艘曳き”というそうです。そして、この“漁労船”は、1回の漁につき、 網をしかけてから、2時間~2時間半、ずっと網を引いたままでいるそうです。4艘目は“運搬船”と呼ばれ、獲れたちりめんを、運搬船の床にある、氷が入ったいけすの中に入れ、港にある加工場まで運び、また、漁場に戻ってくるといった、沖と加工場を往復し、ちりめんを運搬する役割をしています。
この4艘で、朝5時頃~夕方5時頃まで1日4~5回、ちりめん漁をしています。
ちりめん漁の網は、3種類の網目が違った網が、3枚重なってできています。1枚目の網は“くらげぬき”といって、約1㎝角の網目になっています。この網の横には穴があいていて、この網目より大きな魚やクラゲは、この穴から外へ出る仕組みになっています。そして、2枚目は、“選別網”といって、約4㎜角の網目になっています。ちりめんの大きさにも大小があるそうで、ここでは約4㎜以上の大きなちりめんが漁獲されます。そして、3枚目は“ちりめん袋”といって、約1㎜角の網目になっています。約4㎜角の“選別網”を通過してきた、優良品と呼ばれる小さなちりめんが漁獲されるのですが、この優良品と呼ばれる小さなちりめんでも、獲る日や、獲る時間、獲る場所によって、ちりめんの状態が全く違うそうで、川口さんの目利きによって“優品”と“良品”に分けられるそうです。
漁労船で獲れたちりめんは、指令船に積まれているスペアの網と交換をしたあと、指令船から運搬船に移されます。選別網の円周にはチャックが付いていて、スペアの網と交換ができるようになっているそうです。そして、選別網の中に入っている大きいちりめんを最初に、次にちりめん袋に入っている小さなちりめんを、氷の入った別々のいけすの中に入れ加工場まで運びます。
運搬船が港に到着すると、すぐに獲れたてのちりめんをホースを使って運搬船から港に隣接する加工場へと吸い上げていきます。これを大きな桶に入れ、1桶で3回くらい、手作業で、海水を桶に流し、ちりめんを洗い、ゴミなどを取り除きます。
このちりめんを、塩分2%の約100℃の塩水が、へびのようにトグロを巻いたような対流になる釜の中にいれ、約2分間、釜茹でをします。この状態は、一般でいう“釜あげ”というもので、この時点でちりめんに含まれている水分は約80%になるそうです。
そして、一次乾燥として、約80℃の風に約10分間あてます。この状態は、一般でいう“中乾”というもので、ちりめんに含まれている水分は50~60%になるそうです。
その後、二次乾燥として、カゴの中に一次乾燥が終わったちりめんを入れ、そのカゴの10個分ほどのちりめんを、二次乾燥をする台の上に広げ、下から約40℃の風をあて、約30分間乾燥をさせるそうです。この状態は、一般でいう“上乾”というもので、ちりめんに含まれる水分は約25%になっているそうです。二次乾燥が終わったちりめんは、粗熱をとったあと、箱詰めされます。
このように、ここでは、運搬船が港に戻ってから、約1時間で全ての加工工程を終了させるほど、鮮度を重視しています。
加工工程を見学させていただいたあと、川口さんの奥様が準備して下さった、炊きたてのごはんの上に、さきほどの加工工程の中で出てきた、“釜あげ”“中乾”“上乾”の3種類のちりめんをのせて、食べ比べをさせていただきました。今までに食べたことのない、ちりめんの3色丼でした。
まずは“釜あげ”を試食いたしました。柔らかくって、いつも食べている食感でした。次に“中乾”を試食いたしました。釜あげほど柔らかくはありませんが、ほどよく柔らかさがある食感でした。そして、“上乾”を試食いたしました。ちりめんに含まれる水分を約25%にまで落としてしまうので、硬い食感なのかと思っていましたが、硬さは感じられず、さらに、噛めば噛むほど味が出てきて、旨味が凝縮されている感じでした。3種類とも美味しかったのですが、特に“上乾”は、今までのイメージを変えてしまうほど、とても美味しいものでした。
試食が終わると、部屋の隅にある小さなちりめんせんべいを作る機械で、川口さんが“ちりめんせんべい”の実演をして下さるというので、機械のまわりに取材班が集まりました。材料は、大きめのちりめん(上乾)に水分を含ませたもののみです。それをせんべい1枚につき3~4匹ずつ、少しずつ間隔をあけて合計9枚分を、200℃に熱しられた鉄板の上に並べていきます。もう一枚の鉄板で圧力をかけてサンドをし、ちりめんに含まれる水分が、蒸気に変わる力を借りて、10秒くらいで、うすくて、パリッとしたちりめんせんべいが出来上がりました。
興味を持った取材班が、さっそくチャレンジをしてみましたが、1枚につき、たくさんの量のちりめんを鉄板の上に並べてしまったため、厚くて、パリッとしていない、ちりめんせんべいが出来てしまいました。簡単そうに見えても、実際は難しいものだなと感じました。
音戸町では、ちりめん漁をして、自分で加工までする業者さんはいなくなったそうです。このような中、川口さんは、ちりめん漁から、加工まで自社で行い、獲れたてのちりめんをすぐに加工し、鮮度を重視しています。鮮度と乾燥にこだわった、網元直送の川口さんの“音戸ちりめん”を、ぜひ、ご賞味ください。